大困難を克服しまして、この貴重なる地底戦車を閣下のおられるところまで、持ってこなければならんと大決心しまして、パイ軍曹どのと、この幽霊どのをはげましながら、ついにかくのとおり閣下のまえまで乗りつけることに成功しましたわけで、その勇敢なる行動については吾《わ》れながら……」
と、ピート一等兵は、はなはだ正直でないことをべらべら喋りだして、止めようもない。
投獄《とうごく》
リント少将は、さすがに、南極へ派遣されるほどの名将だけあって、早くも、わけを察した。
少将は、幕僚の参謀たちをふりかえり、
「どうだ、事情は、のみこめたろう。要するに、パイ軍曹とピート一等兵とは、この地底戦車の中にとじこめられ、蒼《あお》くなっていた。そのとき、戦車の中にかくれて、密航していたこの黄いろい幽霊と名のる男が、二人をはげまして、ともかくも、地底戦車を、ここまで、のりあげてきたのだ。そうではないか」
参謀たちも、このリント少将のことばに、うなずいた。
少将は、なおも、ことばをついで、
「地底戦車は、一台のこらず、海底にしずんでしまったことと思っていたが、こうして一台でも助かったのは、わがアメリカ陸軍のため、よろこばしいことだ。われわれは、この一台を、できるだけうまく使って南極におけるわれわれの仕事を、やりとげなければならない」
参謀たちは、また大きくうなずいた。
「ところで、この黄いろい幽霊の始末だがどうしたものであろう」
参謀たちは、顔を見合せたが、
「軍司令官閣下。こいつは、地底戦車の秘密を知った奴ですから、今すぐに、銃殺してしまうべきであります」
「自分も、同じことを考えます。こいつは日本のスパイに、ちがいありませんから、殺してしまうのが、よろしい。このまま、生かしておくと、またどんなことをするかもしれません。日本人という奴は、大胆なことをやるですからなあ」
みんな、沖島を早く銃殺せよというのだ。
少将は、そこで顔を、沖島の方へむけなおして、大胆不敵な彼の面を、しばらくじっとみつめていたが、
「おい、黄いろい幽霊。本官が、日本の将校なら、君の勇敢な行動を大いにほめてやるところだが、余はアメリカの軍司令官だから、そうはいかんぞ。只今から、君は、監房につながれることになった。もうあきらめて、おとなしくしているように」
沖島速夫に、ついに、きびしい刑罰が、
前へ
次へ
全59ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング