きまったのであった。しかし彼は、べつに顔色をかえるでもなし、にこにこして、リント少将のことばを、きいていた。
 それから沖島は衛兵にまもられて、監房につれていかれた。
 監房は、氷の中にあった。つまり、氷を下へ掘って、氷の地下室が出来ている。そこに、氷の監房がつくられてあった。
 監房の扉は、木でこしらえてあった。のぞき窓も、やはり木で、くみたててあった。氷と木材との合作《がっさく》になる監房であった。
 沖島速夫は、このふしぎな監房の中に、押しこめられたのであった。
 なかは、いたって、せまい、やっと、二メートル平方ぐらいであった。
 空気ぬき兼《けん》明《あか》りとりの天窓が、天井に空いていた。
 この監房は、ふしぎに寒くない。氷の中にとじこめられているのだから、冷蔵庫の中に入っているようなもので、さぞ寒かろうと思ったのに、かえって温い感じがしたのである。
 沖島は、缶詰をいれてきたらしい箱のうえに、腰をおろした。彼はべつに悲しんでいる様子もなかった。
「さあ、ここですこしねむるかな」
 彼は、腰をかけたままいねむりをはじめた。どこまで大胆な男であろう。
 しばらくねむった。そのうちに、彼をよぶものがあった。
「おい、黄いろい幽霊!」
 はて――と、眼をさますと、窓のところに二つの顔が、沖島の方をのぞいていた。
 一つは、衛兵の顔、もう一つの顔は、ピート一等兵の大きな顔であった。
「おい、コーヒーをもってきてやったよ」
 ピートがいった。


   友情


 コーヒーをもってきてやった――と、ピート一等兵はいった。そして窓のところから、うまそうな湯気《ゆげ》のたつコーヒーの器《うつわ》が見えた。
 沖島は、腰かけから立って、窓のところへいった。
「コーヒーを、もってきてくれたのか。どうも、すまんなあ」
「すまんことはないよ。わしは、ここだけの話だが、お前に、感謝しているよ……」
「おい、ピート一等兵。ことばをつつしめ」
 と、衛兵が、よこで、こわい顔をした。
「だまっていろ、お前には、わからないことだ」
 とピートは、衛兵につっかかった。
「そのわけは、お前がいなければわしは、地底戦車の中で、腹ぺこの揚句《あげく》、ひぼしになって死んでしまったことだろう。お前のおかげで、こうして、氷の上にも出られるし今も、たらふくビフテキを御馳走《ごちそう》になったりして、ま
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