「いや、一大事だ。さっきのさわぎのうちに、リント少将の姿が、急に見えなくなったのだ。もう、しらべるところは、全部しらべた。困ったなあ。君のところも、もう一度、念入りにしらべてくれたまえ」
「はい、承知しました」
 一大事である。飛行隊員は、総動員で、附近をさがすこととなった。――そしてピート一等兵は、味方をうったことが、司令にしられそうになり、あやういところで、たすかった。
 ところが、そのころ、氷の中の監房でも、ふしぎな囚人紛失事件が、もちあがっていた。監房の前では、衛兵と折から又そこへ下りてきたパイ軍曹とが、声高にあらそっている。
「冗談じゃありませんよ。パイ軍曹どの、はやく囚人をかえしてください。黄いろい幽霊を……」
「わしは、知らん」
「わしは、知らんじゃ、困るじゃありませんか。軍曹どのが、監房の扉をあけて、囚人を引っぱりだしたのですぞ。それから、ピストルでおどかしたり、靴で、けとばしたりしたではありませんか」
「けとばすわけがあったから、やったまでだ。そんなことについて、貴様のさしずはうけない」
「さしずをしているのではありません。黄いろい幽霊を、かえしてくださいと申しているのです」
「わしが、そんなことを知るものか。囚人の番をするのは、貴様ら衛兵の仕事じゃないか」
「ああ、それはひどい。軍曹どのが、囚人を自由にしておきながら……」
「なにを云う。上官に対して無礼者め」
 といったかと思うとパイ軍曹は、らんぼうにも、衛兵のあごに、鉄拳《てっけん》をガーンとうちこんだ。衛兵は、悲鳴をあげて、その場にたおれてしまった。
 そのころ、氷上ではリント少将の姿をもとめ、ますますさわぎが大きくなった。
「どこにも、おられないじゃないか」
「ふしぎなこともあるものだな」
「おや、もう一つ紛失したものがあるぞ。ここにあった」
「何がなくなった?」
「地底戦車が、どこかへいってしまった」
「地底戦車? そんなばかなことが……」といいながらそこを見ると、なるほど地底戦車がない。
「一体、これはどうしたんだ」
「うむ、これは、容易ならぬ事件だ」


   三つの紛失《ふんしつ》事件


 リント少将が行方不明となる。
 囚人の沖島速夫が、いつの間にかどこかへにげだしてしまった。
 そこへもってきて、氷上においてあった地底戦車が、紛失してしまった。
 三つの紛失事件が、同時に起
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