いに爆弾を切って放したとおもったのである。――ところが、どうしたわけか爆撃の直前にいって、パイ軍曹は、
「うーむ」
 と呻って、把手《はしゅ》から手を放してしまった。
「パイ軍曹どの。どうせられましたか」
「いかんわい。やめたよ」
「なぜ、やめられましたか」
「下に見えているのは、日本軍の基地だと思っていたが、よく見ると、何のことじゃ。さっきまで、おれたちのいたアメリカ基地だったのじゃ。とんだ間違いを、やらかすところじゃった。もうすこしでリント少将閣下を爆撃するとこだった。いや、あぶなかった」
「へえ、あぶないことでしたな」
「基地へかえってきたことを、おれたちにおしえてくれないから、いかんのだ」
「しかし軍曹どの。機長から命令もないのに爆撃をするから、こういう間違いがおこるのですぞ」
「なにを。お前は、だまれ。上官にむかってなにをいうか」
「へーい」
 パイ軍曹は、自分の失敗に、てれくさくなって、ピートにあたりちらした。ピートこそ、いい面《つら》の皮《かわ》だった。そのころ、機は高度をだんだん低めて、着陸の用意にかかっていた。
 基地上空を一周すると、さらに高度は低くなった。氷原が、下からむくむくともりあがってくるように思った。エンジンの音が、急におちて、機はさっと氷原に下りて、小さく跳《は》ねた。


   二機|撃墜《げきつい》


「三機帰還せず!」
 基地へかえってきたのは、たった二機だけであった。
 飛行隊長は、司令の前に、面目《めんぼく》なさそうに、あたまを下げた。
「三機の消息について、知るところをのべよ」
 司令はふきげんである。
 パイ軍曹は、ピート一等兵の横腹《よこっぱら》をついた。ピート一等兵は、目を白黒した。例のことが、ばれては、たいへんだ。
「はい。壮烈なる空中戦の結果、墜落したようであります。われわれも、戦闘中でありましたため、はっきり、その先途《せんど》を見届けることが、できませんでした」
 隊長は、うまいことをいった。ピート一等兵は、やれやれと胸をなぜおろした。
 司令は、これをきいて、うなずき、
「おお、そうか。そして、戦闘の結果は、どうであったか。撃墜数を報告せんではないか。撃墜状況はどうか」
「はい。撃墜は、ありません」
「なんだ、撃墜はないというのか。これだけの犠牲《ぎせい》をはらって、撃墜は一機もなしというのか。お前たちは
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