かし戦死はいやですね」
「重傷でもいいなあ。そしておれも重傷だ。どっちも、うごけないというのならいいだろう」
「なるほど、それは名案だ」
「それになあ」とパイ軍曹はもったいらしい顔付《かおつき》で「さっきから見ていると弾丸をうっているのは、こっちばかりなんだ。日本機は、どういうものか、一発もうってこないで、ひらりひらりと逃げまわってばかりいるのだ。だから、向うがうってくるまで、こっちでもうたなくていいんだ。どうだ、おれはなかなかおちついて、物事をよく見ているだろう。えへん」
パイ軍曹は、ちょっぴり鼻をうごかしてみせた。
ピート一等兵はそれをいいことにして、パイ軍曹のそばにすわりこんでしまった。
そのうちに、僚機の機銃のうち方が、きこえなくなった。
「ああパイ軍曹どの。射撃をしなくなったです。どうしたのでしょうかなあ」
「さあ、どうしたかなあ。察するところ日本機は全部、うちおとされたのかもしれないぞ」
パイ軍曹は、景気のいいことをいった。
「そうですかなあ。急に、こっちがつよくなったんですね」
「お前みたいな下手《へた》くそな射手ののっているのは、この飛行機だけだ。他のやつは、元来航空兵なんだから相当に射撃には自信があるはずだ。ついに、ぽんぽんとやっつけたんだろう」
「下手くそだといっても、自分は元来地底戦車兵なんですからね。それは仕方がありませんよ」
「それは大したいいわけにならないよ」
「え、なぜです」
「あれを見ろ」
「えっ」
「下を見ろというんだ。あそこの氷上に見えてきたのは、日本軍の基地にちがいない。今おれが爆弾をおとしてみせるから、よく見ていろ。おれはお前とちがって、うまく命中させてみせるぞ。同じ地底戦車兵でもパイ軍曹はかくのとおり、空中勤務にまわされても、腕はたしかだというところを今見せてやる」
「えへ、本当ですか」
「本当だとも。この爆撃照準器の使い方は、ちょっとむずかしいんだが、おれはかねて、こんなこともあろうかと、あらかじめ研究しておいたのだ。こういう具合にやるんだ。ええと、もすこし右へまわして……いや、いきすぎた左へまわして、この目盛を、こっちの零《れい》に合わしてと……これでいい、そこで、二つの数字が合ったところで、爆弾を支えている腕金をはずせばいいんだ。一チ、二イ、三ン!」
「あっ」
ピート一等兵は思わずこえをだした。パイ軍曹が、つ
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