》をつけられている三吉のことだった。九死のうちにも、僅かな隙を見出す機転と胆力《たんりょく》とがあった。
「おお、気をつけろ。その辺に小僧が逃げこんでやしないかッ」
 と上から岩がどなった。
「えッ」
 と下にいる子分は、階段の下をジロジロと眼をくばった。しかし三吉の姿はどこにも見えなかった。階段の蔭にも、扉のうしろにも……。
「いませんぜ、親分」
「そんなことはないんだが……」と岩も不思議そうにまわりを見たが、やっぱりいない。「ハテナ。たしかにこっちへ来たはずなんだが」
「親分、もう時間がありませんぜ」
「そうか。いよいよ、もう始る時刻だったな。それじゃ小僧にかまってなどいられない。さア地底機関車に全速力を懸けて飛ばすんだ」
 ああ、地底機関車。地底機関車は、その扉の向うにあるんだ。
 三吉はどこへ消えたのであろうか。


   解けぬロープ


 三吉は、危い瀬戸際《せとぎわ》で、子分の足許を鼠のように潜《くぐ》りぬけると、扉の向うへ入ってしまったのだった。まさか自分の足許を潜るものがあろうとは、子分先生も思わなかった。
 三吉は見た! そこで彼は見たのである。噂には聞いたが、始め
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