大きい輪が、室町の辺に幾重《いくえ》にも重《かさな》っていた。
「すると、どうしても、ここのところが怪しいわけだ」
と三吉は鉛筆の尻で、地図の上を叩いた。「よし、こいつはどうしてやるかな」
三吉は地図の上に、すべての注意を集めているようだった。もう少しよく気をつけているなれば、そのとき人気のない奥の方でカタリ、コトリと小さい音のするのが聞えたはずだ。鼠でも出ているのか。
いや鼠ではないようだ。この事務所には有名な大きな井戸のあることは、記憶のよい皆さんはご存じであろう。その井戸はいつも黒い大蓋がしてあるのだ。その黒い大蓋がひとりで、ソロソロと持ち上ってくるではないか。誰も井戸の側にはいないのに大蓋はスクスクと持ち上ってくる。化物屋敷か? それとも何者?
三吉は、いよいよ地図と夢中に首っぴきである。しかし彼の足は、床下から出た二つの踏み釦《ボタン》の上に軽く載っている。それは果して故意か偶然か。いや、何にしても不思議なこの場の光景ではある。
三吉の大危難
ソロソロと持ち上った大蓋《おおぶた》から、やがて一本の手が生《は》えた。つづいて何か釘《くぎ》ぬきのようなもの
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