が……。
 もし人が見ていたなら、物凄《ものすご》さに、あッと声をたてたかも知れない。井戸からノッソリ全身を現したは、紛れもなく巨大漢「岩」だった。彼はなぜ井戸から出てきたのだろう。
 岩は細心の注意を配って、ソロリソロリと隣の室をうかがった。人気《ひとけ》ないのを見すまして、だんだんと事務室の方へ……。やがて硝子戸《ガラスど》越《ご》しに、三吉少年が後向《うしろむき》になって、地図を案じているのが、ハッキリ解った。
「うーむ」
 岩はそれを見ると、満面を朱に染めた。
(小童《こわっぱ》め、おれ様の計画を嗅《か》ぎつけたからには、もう生かしておけぬぞ。小童の癖に、おれ様の仕事の邪魔をする御礼をするぞ。うーむ)
 岩は胸の中でその呪わしい言葉を吐くと、静かに硝子戸に手をかけた。戸は細目に開《あ》いた。音もなく大きく開く。岩はスルリと三吉のいる室内に滑りこんだ。その手にはコルトの六連発のピストルを握って。
 三吉は一向気がついた様子もない。
「うぬッ」
 ぱぱーン。ぱぱーン。
 ついに引金は引かれたのだ。はげしい弾丸の雨の下、この近距離で、果して三吉は射殺を免《まぬか》れることが出来るだろ
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