《ドル》


 正金銀行の大金庫は、入れるのには簡単だったが、開くのには大変骨が折れた。それは容易に盗み出されないためだった。
 ようやく、ギーと最後の室が開いた。もうあとは最後の文字盤を合わせて、ハンドルをぐっと引張ればよい。
 大江山課長はじめ警察の人々、銀行の人々は、思わず唾《つば》を嚥《の》みこんだ。
 ガチャン、ガチャン、ガチャン。――
 ハンドルを握って引張ると、ビール樽《だる》をはめこんだような金庫の扉《と》が、音もなく口をあけてくる――
 金貨は?
「あッ」
「おお、金貨が見えない」
 不思議だ、不思議だ。金貨が重さで一|瓲《トン》半もあるというのが、姿を消して一枚も残っていなかった。あの厳重な警戒網を誰が抜けることができたろう。
 全くのところ、この金庫室には誰も入らなかったのに、それだのに金貨は煙の如くに失《う》せている。
 大江山課長の顔は、赤くなったかと思うと、こんどは反対に土のように青ざめた。
 怪盗岩は、約束をほんとうに果したのだった。
 少年探偵三吉は、どこで何をしているか。岩は、あの大金をどうして運び出したか、そしてまたどこへ使おうというのか。
 ルンル
前へ 次へ
全56ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング