た。


   暗闇の警備


 その夜の正金銀行の警戒ほど厳重なものは無かったと思われる。
 特別警察隊の腕きき警官が三十人と、横浜の警察の警官と刑事とが五十人と、合わせて八十人の警戒員は、大江山捜査課長の指揮のもとに、それこそ蟻のはい出る隙もないほどの大警戒に当った。
 夜はシンシンと更けた。
「大丈夫かい」
「大丈夫にもなんにも、人一人やって来ないというわけさ」
 警戒員同志が、暗闇の中でパッタリ突きあたると、お互いの顔を懐中電灯で照らし合いながらこんな会話をした。
「異状なし」
「全く異状ありません」
 かくて夜明けが来た。東の空が、ほの明るくなって来た。
「夜が明けるぞ。とうとう、岩はやってこなかった」
「あいつもやき[#「やき」に傍点]が廻ったと見える。昨日のうちに貰うぞといっときながら、一向《いっこう》やってこんじゃないか。尤《もっと》も僕たちの警戒がうまく行ってるので、恐れをなして寄りつかなかったんだろうけれど」
 だが課長だけは心配が抜けなかった。今日になって、金貨の顔を実際に見ておけば、本当に安心出来ると思った。
「よし、金庫を開けよう」


   ああ金貨百万|弗
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