だ。この潜水服には酸素タンクがついているから、一人で海底が歩けるのだ。どんどん歩いて月島の海岸に近づくと大辻さんの隙《すき》をねらって、海面から海坊主《うみぼうず》のような頭を出し、いちはやく服をぬいで、大辻さんに渡し、自分は逃げてしまったのだ」
「そうかなア。先生をよこすといっていたけれどね」
「先生も生徒も来るものか。それよりか足跡でも探してみようよ」
懐中電灯をたよりに、附近を探してゆくと、砂地に深くそれらしい一風変った靴跡が残っているのを発見することができた。
「やあ、しめたしめた」三吉は用意の石膏《せっこう》をとかして、手早くその靴の形を写しとった。それは真白の靴の底だけのようなものだった。
「どうだ三吉。俺は遊んでいるようでいて案外手柄を立てるだろう。名探偵はこうでなくちゃ駄目だ。この靴型も俺の手柄だから、俺が持っていることにするよ」
大辻は三吉の手から岩の靴型をひったくるように取った。そうこうするうちに東の空に次第に紅《くれない》がさしてきた。やがて夜明である。
ほのぼのとあたりが薄紙《うすがみ》を剥《は》ぐようにすこしずつ見えて来た。
波がザブリザブリと石垣を洗
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