な男が寄って来てね、『まさかのときには、こいつで探したがいいでしょうから、貸してあげます』とこいつを貸してくれたのだよ」と潜水服を指さした。
「大きい男? そしてどうしたの」と三吉少年は詰《つ》めよりました。
「俺は有難うと礼をいったが、どうして着るのか分らない。ついでに教えてくれと頼むと、『今先生をよこすから、これを抱《かか》えてちょっと待っていて下さい』といって向うへ行ったよ。もう来るはずだ」
 三吉は笑いだしました。
「何を笑うんだい。これが役に立つことを知らないね」
「だってその潜水服、始めから濡れていたんだろう?」
「そうさ」
「じゃ駄目だよ。その服は海中で使ったばかりだったんだ。大きい男というからには、岩にちがいない。ほーら御覧、赤字で岩と書いてあるじゃないか。僕たちは、馬鹿にされているんだよ」
 懐中電灯で照らすと、なるほどそのとおりの印《しるし》があった。大辻はベソをかいている。


   怪盗「岩」の逃げた路


 三吉は、ズバリと結論を下した。
「岩の奴は、汽艇の中で発見されなかったろう。それは、追付《おっつ》かれる前に、この潜水服を着てヒラリと海中に飛びこんだから
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