門だ。
 水のボトボトたれる潜水服を抱えているけれど、あまり時間が長く経《た》つので、いまはこらえ切れなくなって、水に漬《つか》ったままあくび[#「あくび」に傍点]の連発である。
「フガ……フガ……うわッ……うわッ……うわうわうわうわーッ」
 まるで蟒《うわばみ》があくび[#「あくび」に傍点]をしているようだ。
「なんてまア遅いんだろう。いやになっちゃうなア。名探偵は辛《つら》いです。天下に名高い大辻……うわッ……ハーハックション!」
 どうやら大辻又右衛門、風邪をひいたらしい。
 とたん[#「とたん」に傍点]に陸《おか》の方から何だかオーイオーイの声がする。
「おッ。呼んでいるな。さては敵か味方か。とにかく寒くてやり切れないから上陸、上陸……」
 大辻探偵は潜水服を背負《しょ》うと危い足取で月島の海岸めがけてザブザブと上ってきた。


   潜水服を預けた男


「その恰好はどうしたの?」
「なアんだ。三吉か」大辻又右衛門は胸をなで下した。
「潜水服でもぐっていたのかい?」
「うんにゃ」と大辻は正直に首を振り、「お前が命じたとおり月島の海岸に立って海面を見張っていたよ。すると傍へ大き
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