。わッはッはッ」
 岩は巨体をゆすぶり、天井を向いて、カンラカラカラと笑った。部下は只もう呆気《あっけ》にとられて、親分の笑う顔を眺めつくしていた。
「そのかわり、仕事としてはこの上もなくむつかしいのだ。いざという時までは、これっぱかりも他人に悟《さと》られちゃならない。そのために、日数をかけて随分遠くからジワジワと大仕掛にやってゆくのだ。これをやりとげるものは英雄でなくちゃならない。この岩は英雄である部下が必要だ。英雄でない部下はいらないから、さア今のうちにドンドン帰って行っていいぞ」
 しかし誰も席を立とうとしない、誰も皆英雄なのだろうか? 大変な英雄たちもあったのである。
 その時どこからともなくごうごうと恐しい響が近づいて来た。オヤッと思ううちに、今度はだんだんと遠のいていった。
 部下の一人が立ち上って壁の額を外すと、驚いたことに、その裏に四角いスクリーンが現れて、その上には今しも遠ざかってゆく地下鉄電車の姿が映っているではないか。
「いまのが地下鉄の始発電車ですよ」
「よしッ。仕事に掛ろう!」
「岩」はスックと立上った。


   大辻珍探偵


 こちらは珍探偵大辻又右衛
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