た三吉は、何を思ったか、地震計をしまうと、三井銀行の地下室を、アタフタと飛び出した。
一方、横浜正金から地中へもぐりこんだ十一人の決死隊はどうなったか。もう四十時間も経ったが、消息が分らなくなった。生か死か?
探偵競争
怪盗「岩」は、世界に一つしかないという地底機関車を動かして、何ごとか大きな悪事をくわだてているらしいのであるが、一体それは何だか、まだ様子がハッキリわからない。
大江山捜査課長はとうとう一大決心をかため、十人の警官から成る地中突撃隊を編成した。これを見ていたのが、「岩」の足型を抱えて放さない大辻珍探偵で、彼も勇ましくこれに加わって一行は十一人となった。早速、横浜正金銀行の金庫裏から地中にもぐりこんだ。
わが少年探偵三吉は、参加したいのを怺《こら》え、師の帆村探偵から教わったとおり、最初から一貫した探偵方針を捨てることなく、その後は地震計をもって、日本橋室町附近の地下室という地下室を、なんどか一生懸命で探しまわっている。
地中の怪
地中突撃隊はどうなったか?
大江山隊長を先頭に、大辻珍探偵をビリッコに、一行十一勇士は勇ましくも土竜《もぐら》のように(というと変だが)、明暗《めいあん》もわからぬ地中にもぐりこんだ。始めは腹這《はらば》って、やっと通れるくらいの穴が、先へ行くにつれ大きく拡がってきた。おしまいには、楽に立ってあるけるようになって、持ちこんだ穴掘機械が邪魔なくらいだった。
「さあ、こんどは穴が北に向いたぞ」
と磁石をしっかり手に持った大江山警部が叫んだ。
「はあ、もうこれで横浜の北東を十キロも来ました」
と測量係の警官が報告をした。こうして一行は今どの辺の位置にいるのかを、地図の上に鉛筆のあとをつけながら、たゆまず前進をつづけた。――しかし一向に、「岩」にも出会わなければ、その子分手下にもぶつからない。
「ねえ大江山さん」と大辻が後から声をあげた。「岩の奴は、あの大金を持って、外国へずらかったんじゃありませんか。それとも私達に恐《おそれ》をなしたのか、さっぱりチュウとも鳴きませんぜ」
大辻老は、岩を鼠かなんかと間違えていた。一行の気がすこしゆるみかけた。丁度《ちょうど》そのときだった。
どどーン、ぐわーン。いきなり恐しい物音が、後の方にした。ハッと思う間もなく、恐しい風が一同の横面《よこつら》をいやというほど殴《なぐ》った。「さあ引返せッ」と隊長が呶鳴《どな》った。すわ何事が起ったのだろう。
生埋《いきうめ》の一行
「うわーッ、たいへんだッ」
「どうしたどうした」
「今通った道が崩《くず》れて、帰れなくなった」
「なに帰れない」大辻老の顔色は紙のようにあせた。「帰れないとたいへんだ。早く掘って穴をあけといて下さい」
しかし隊長は一向号令を下さない。さすがは捜査課長だ。這《は》いつくばって崩れた土の臭《におい》を熱心に嗅《か》いでいるのだ。
「おお、ダイナマイトの小型のを仕掛けた者がいる。油断をするなッ」
「大丈夫です。大丈夫です」と一同。
「ダッ、ダイナマイトですって」大辻老は気が変になった鶏のように、一人でバタバタ跳《は》ねかえっている。
「崩れた箇所はあのままにしておいて、一同前進!」隊長は勇ましい号令を下した。
だッだッだッと、一行は小さく固まって、懐中電灯をたよりに、低い泥の天井の下をドンドン前進した。
「左、左、左へ曲れ」
「オヤ道が行きどまりだ。おかしいぞ」
「うん、これは一杯|食《く》ったかな――集れッ」
と隊長の号令だ。
「番号」
一チ、二イ、三ン……。
「オヤ一名足りないぞ。誰がいなくなったのだッ」
確かに一名足りない。どこへ消えたというのだろう。その足りない男については、誰もかもどこの誰だかハッキリ知らなかった。一同は心臓をギュッと握られたように、無気味《ぶきみ》さに慄《ふる》えあがった。
岩のいた証拠
「オイ大辻君。君の大事にしている足型は、こういうときに使わなくちゃ、使うときがないよ。ちょいと貸したまえ」
「イヤイヤイヤイヤ」と大辻は仰山《ぎょうさん》にその手を払いのけた。「探すのは、わしに委《まか》せなさい。貸すくらいなら、壊した方がましだ」
「そんな意地の悪いことをいわないで……」
「どいたどいた、わしが探す。ホラ皆さん、足を出して……」
「失敬なことをいうな」
そんなにまで騒いだが、一名|欠《か》けた残《のこり》の十名の中には岩は絶対にいないことが解った。
「いませんよ。大丈夫です。隊長さん」
「じゃ、今まで来た軟かい道の上から行方不明の警官の足跡を探して、調べてみたまえ」
「はいはい」
大辻老は向《むこ》うへ懐中電灯をたよりに引返《ひっかえ》していった。そしてしきりと路上にかがまって
前へ
次へ
全14ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング