地下から坑道を掘り、金庫の裏側のあまり丈夫でないところを破って、金貨を盗んでいったのです」
「一体岩は、そんな機関車を手に入れたり、百万弗の金貨を握ったりして、これから何をやろうと思っているのだ」
「さア――」といったなり一同は顔を見合わせて、誰も返事をするものがなかった。それほどこの答は難しかった。
「先刻《さっき》の話では、岩は坑道をあけていったそうじゃ。どうだい、その坑道を逆に進んでいったら岩の巣窟《そうくつ》へ行けそうなものじゃないか」
 と総監が口を挿《はさ》んだ。
「それは名案」
 と一同は卓《たく》を打って叫んだ。
「では決死隊を編成して、これからすぐ地中に潜ることにしよう」と総監は決心の色をアリアリと浮かべた。


   決死隊を募る


「さア、岩と地中で戦おうという勇士はいないかア。決死隊に加わろうという偉い者はいないかア」
 大江山捜査課長は庁内の警官を集めて、一段高いところから叫んだ。
「よオし。私が参ります」と手をあげた若い警官がある。
「なに、お前やるかッ」
「私も参ります」
「私も是非やって下さい」
 忽《たちま》ち、九人の決死隊員が出来あがってしまった。
「気を付けッ」大江山捜査課長は九人の決死隊員を並べて号令をかけた。九人が九人、いずれも強そうな立派な体格の勇士ばかりだ。この中に岩が紛れこんでいては大変と、課長は一同をズラリと見廻したが、誰もかもチャンとしていた。
(まず安心だ)
 と課長は心の中で思った。しかし念のために勇士たちの手袋をとって、その手を見ておくとよかったのであるけれど、岩が片手を爆弾でやられたことを知らぬ課長のこととて、それは気がつかなかった。
「穴掘り機械も取りよせてある。ほら、あの自動車に積んであるのがそれだ」
 勇士たちは振りかえって課長の指さす方を見ると、なるほどガッチリした機械が車上に積まれてあった。
「それから、この決死隊のことを地中突撃隊と名付ける。隊長としては、この大江山が先頭に立って指揮をする」
 ああ、大江山課長が進んで決死隊長になるというのだ。これこそ正に警視庁の非常時だ!


   大辻老の参加


 十人の地中突撃隊が警視庁前に勢揃をして、いよいよ勇ましい出陣に移ろうというその時だった。そこへ駈《か》けつけたのは一人の少年と、布袋腹《ほていばら》の巨漢、これはいうまでもなく少年探偵の三吉と珍探偵大辻だった。
「オイ三吉どん」と大辻が真赤な顔をしていった。「僕等もこの地中突撃隊に参加させて貰おうじゃないか。この方が岩をとッ捕《つか》まえる早道だぜ」
「そうだね」と三吉は例の調子で黒い可愛い眼玉をクルクルさせていたが「僕は反対するよ」
「なに反対をする。この弱虫め!」
「僕はいままで探偵してきたことを続けてゆく方がいいと思うんだ」
「なんのかんのというが、実はこわいのだろう。わし[#「わし」に傍点]はそんな弱虫と一緒に探偵していたくはないよ。帆村先生が帰って来て叱《しか》られても、わし[#「わし」に傍点]は知らぬよ」
「叱られるのは大辻さんだよ」
「いや、もう弱虫と、口は利かん」
 とうとう三吉と大辻とは別れ別れになってしまった。
 大辻老は決死隊に参加を許されると、いよいよ大得意だ。ふんぞりかえって、自動車に乗っている。ナポレオンのような気持らしい。しかも岩の足型を大事に小脇に抱えている。
「大辻さん。その足型を壊《こわ》しちゃ駄目だよ」
「なアに大丈夫……おっとッとッ。お前とは口を利かぬ筈《はず》じゃった」
 仕度は出来た。突撃隊の自動車は一列に並んで出発した。横浜正金銀行さして……。


   「はてな」の室町《むろまち》附近


 三吉少年は一人残されたが、失望しない。
「すみませんが、ちょっと測《はか》らして下さい」
 そういって彼は日本橋|界隈《かいわい》の地下室のあるところを一軒一軒廻っては、携帯用地震計を据《す》えつけて測って歩いた。
「一体、何を測るんだい」
「おじさんの家は大丈夫だということが分るんですよ」
「なにが大丈夫だって」
「それは今に分りますよ。フフフ」
 こんな会話をしながら三吉は歩いて廻った。しかし三吉が室町方面に近付くに従って、彼の顔はひきしまってきた。
「はてな」と彼は日本銀行の地下室でいった。
「はてな」と又、東京百貨店の地階でいった。
「はてな」と彼はまた三井銀行の地下室でもいった。
 三吉は、その三つの場所で、いつも休みなく伝わってくる小地震を感じた。それは地底のはるかの下から伝わってくるのであって、決して地上からではない。本当の地震はごくたまにやってくる。しかも強くひびくところはごく短い時間だけだ。しかしこの室町界隈では不思議な連続地震が起っている。
「これは何かあるぞ!」
 しばらくの間、ジッと考え込んでい
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