飛行機が飛び交い、水中には水上署が秘蔵している潜航艇が出動した。空、陸、海上、海底の四段構えで、それこそ針でついたほどの隙もなく二重三重に守られた。
 大江山捜査課長は部下を率いて、横浜埠頭《よこはまふとう》へ出張した。
「フネデトウキョウヘカエッテクルゾ……東京へ帰るというからには、芝浦へ着くのか、それとも横浜に着いて東京へ入るのか」
 課長は大いに迷った。しかし愚図愚図《ぐずぐず》することは許されない。係員を半分にわけ、一隊は芝浦港へ、一隊は横浜港へ。そして課長自身は信ずるところあって横浜へ――。
 さて今や、当日たった一|艘《そう》入港《にゅうこう》する外国帰りの汽船コレヤ丸が港外に巨影を現した。


   コレヤ丸入港


 米国《べいこく》がえりのコレヤ丸は、疲れ切った船体を、港内の四|号《ごう》錨地《びょうち》へ停めた。
 停まるを遅しと一艘のモーターボートが横づけになった。ドヤドヤと梯子《はしご》を上る一行の先頭に、大江山捜査課長の姿があった。
「やあ御苦労さまです」と船長が迎えた。
「無線で命令したことは御承知でしょうな」と捜査課長は鋭くいった。
「はい。船客は一人も降りていません」
 その言葉を課長は聞咎《ききとが》めた。
「船客だけじゃない、船員もですよ」
「それは勿論ですとも。しかし先刻《せんこく》機関長をお連れになりましたね」
「なに、先刻とはいつです」サッと課長の顔は青ざめた。
「先刻港外へ水上署の汽艇をおよこしになったじゃありませんか。そして取調べがあるからといって機関長だけを……」
「ばッばかなッ」皆まで聞かず大江山課長は怒鳴《どな》った。「その機関長の室へ、直ぐ案内するのだ」
 矢のように機関長室へ駈けこんだ課長は、三分と経たない間に、又矢のように甲板へ飛び出して来た。
「彼奴《あいつ》の指紋ばかりだ。機関長に化けていたのが岩だッ」
 そのとき、一人の船員が叫んだ。「あれッ、あすこへ先刻《さっき》の汽艇《きてい》が行きますよ」


   消えた機関長


「どこだ、どこだ」
 大江山課長は双眼鏡を借りて指さされた遥《はる》か彼方《かなた》の海上を見た。なるほど水上署の旗を翻《ひるがえ》した一艘の汽艇が矢のように沖合を逃げてゆく。
「あッ!」課長は舷《ふなばた》から乗り出さんばかりにして叫んだ。「いるぞ。機関長の姿をした奴が見える。よし
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