地中魔
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)丸《まる》の内《うち》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)私立探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)それでわし[#「わし」に傍点]のところへ
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   少年探偵三浦三吉


 永く降りつづいた雨がやっとやんで、半月ぶりにカラリと空が晴れわたった。晴れると同時に、陽の光はジリジリと暑さをもって来た。
 ここは東京|丸《まる》の内《うち》にある有名な私立探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》氏の探偵事務所だ。
 少年探偵の三浦三吉《みうらさんきち》は、今しも外出先から汗まみれになって帰って来たところだ。いきなり上衣《うわぎ》とシャツとを脱ぎすてると、乾いたタオルでゴシゴシと背中や胸を拭《ふ》いた。それがすむと、どこから持って来たのか冷々《ひえびえ》と露の洩《も》れている一升壜《いっしょうびん》の口を開いてコップに移した。冷え切った麦湯! ゴクンゴクンと喉を通って腸《はらわた》までしみわたる。
「ああ、いい気持だ」
 と三吉少年は胸を叩いて独《ひと》り言《ごと》をいった。そのとき天井を仰《あお》いだ拍子に、欄間《らんま》の彫りものの猫の眼が、まるで生きているようにピカピカと青く光っているのに気がついた。
「オヤッ!」
 少年は驚きの声をあげた。


   怪事件?


 三吉少年はコップを下に置くと、テーブルの下を探って釦《ボタン》をグッと押した。すると、天井に嵌《は》めこまれてあった電灯のセードが音もなく、すうっと下りてきた。
 だがセードは床から一|米《メートル》ばかりの所でピタリと停った。
 見るとセードのあった穴から太い金属の円柱が下りて来た。セードはその円柱の先についているのだ。円柱には二つの穴があった。三吉は眼を穴にあてた。そして円柱の横についているヨーヨー位の大きさの受話器をとって左の耳にあてた。人の話声がする。
「では明日中にどうぞ」
「大丈夫です。不肖《ふしょう》ながら大辻《おおつじ》がこの大きい眼をガッと開くと、富士山の腹の中まで見通してしまいます。帆村荘六の留守のうちは、この大辻に歯の立つ奴はまずないです」
 少年はクスリと笑って受話機をかけ、円柱に手をちょっと懸《か》けると、この機械は
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