俗称をもって或る方面には聞えている場所だった。それは通りぬけのできる三丁あまりの横丁にすぎなかったが、ユダヤ秘密結社《ひみつけっしゃ》の入口があった。なんでも夜中の或る時刻に団員をその入口へ案内してくれる機関があるらしかったが、その様子は分明《ぶんめい》でない。多分団員の服装か顔かに目印《めじるし》をつけて、その団員が通るところを家の中から見ている。ソレ来たというので、スイッチかなにかを入れると、地面がパッと二つに割れて、団員の身体を呑んでしまう――といったやり方で、団員を結社本部へ導《みちび》いているのじゃないかという話だった。なにしろどうにも手をつけかねるユダヤ結社のことだった。知る人ばかりは知っていて、其《そ》の不気味《ぶきみ》な底の知れない恐怖に戦慄《せんりつ》をしていたわけだった。その「ユダヤ横丁」がすぐ塀の外になっているというので、これは辻永が顔色をかえるのも無理ではないことだと思った。
「これはことによると――」と辻永は云《い》い澱《よど》んだ末《すえ》「例の三人の青年はユダヤ結社のものにやっつけられたのじゃないかと思う」
「うむ。しかし屍体《したい》には短刀の跡もなかっ
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