地獄街道
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)舗道《ほどう》から

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かゆい[#「かゆい」に傍点]
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     1


 銀座の舗道《ほどう》から、足を踏みはずしてタッタ百メートルばかり行くと、そこに吃驚《びっくり》するほどの見窄《みすぼ》らしい門があった。
「おお、此処《ここ》だ――」
 と辻永《つじなが》がステッキを揚《あ》げて、後から跟《つ》いてくる私に注意を与えた。
「ム――」
 まるで地酒《じざけ》を作る田舎家《いなかや》についている形ばかりの門と選ぶところがなかった。
「さア、入ってみよう」
 辻永は麦藁帽子《むぎわらぼうし》をヒョイと取って門衛に挨拶《あいさつ》をすると、スタコラ足を早めていった。私も彼の後から急いだけれど、レールなどが矢鱈《やたら》に敷きまわしてあって、思うように歩けなかった。そして辻永の姿を見失ってしまった。
 私は探偵小説家だ。辻永は私立探偵だった。
 だから二人は知り合ってから、まだ一年と経たないのに十年来の知己《ちき》よりも親しく見えた。それはど
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