眼を輝かせた。「おれ様の探偵眼《たんていがん》の鋭さについて君は駭《おどろ》かないのか。いいかネ。その妖酒を飲んで例のバーを出るとフラフラと歩き出すころ一時に効目《ききめ》が現れてくるのだ。まず第一に尿意《にょうい》を催《もよお》す。第二に怪しい興奮にどうにもしきれなくなる。ところでそのバーを出てから尿意を催すと、どこかで始末をつけねばならぬが、適当なところがない。どこかで――と考えると、頭に浮かんでくるのは、その直《す》ぐ先の川っぷちだ。その川っぷちへ行って用を足す。ところがその辺に桜《さくら》ン坊《ぼう》という例のストリート・ガールが網を張っているのだ。これはカフェ崩《くず》れの青年たちを目当てのガールなのだが、たまたまバー・カナリヤから出て来た彼《か》の妖酒に酔いしれたお客さんだとて差閊《さしつか》えない。客の方では差閊えないどころかもう半分気が変になっている。だから桜ン坊の捕虜《ほりょ》になって、円タクを拾うと、例の女の家の方面へ飛ぶのだ。そのうちに、又々妖しの酒の反応が現れて、こんどは全身がかゆくなる。かゆくて苦しみ出すころ、自動車は彼女の家の近くに来ている。隠れ家をくらます
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