み乾《ほ》した。私は狐に鼻をつままれているような気がしたが、アルコールときては目がないので、目の前の無色のカクテルを(彼は黄色だというのを)ググッと一と息に飲んだ。
「それでいい。それでいい。大いに愉快だ」


     5


 辻永は大変興奮してきたようだった。この分では今に酔払って前後《ぜんご》がわからなくなるのであろう。私は今のうちに、先刻《せんこく》の話を聞いて置こうと考えた。
「あの話ネ、かゆくなるというのは、どういうわけなのだ」
「かゆくなるわけかい。ウン、話をしてやろう。――西洋に不思議な酒作《さけづく》りがある。それは禁止の酒を作っては、高価ですき[#「すき」に傍点]者《しゃ》に売りつけるのだ。法網《ほうもう》をくぐるために、酒瓶《さかびん》の如きも普通のウイスキーの壜に入れ、ただレッテルの上に、玄人《くろうと》でなければ判らない目印《めじるし》を入れてある。こうした妖酒《ようしゅ》のあることは君にも判るだろう」
「……」私は黙って肯《うなず》いた。それは例の媚薬《びやく》などを入れた密造酒のことを指すのであろう。
「これは大変に高価なもので、到底《とうてい》日本など
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