「まア景気がいいのネ」
とミチ子はグラスを二人にすすめると向うへいった。
「さア一杯やろうよ」
「ウン」
「どーだ、これを飲んでみないか。君の口にはよく合うと思うがな」
と彼は自分のところへ置かれた盃をこっちへ薦《すす》めようとして、又別の声をあげた。
「オヤオヤ。ミチ子の先生、今夜はどうかしているぞ。コンコドスを僕のところへ置かないで君の前へちゃんと置いているじゃないか。莫迦《ばか》に手廻しがいいなア」
そういって辻永は二つのグラスを横から眺《なが》めた。私の眼にうつったものは、辻永のグラスの黄色い液体、私のグラスの透明な液体であった。
「コンコドスって無色透明《むしょくとうめい》なのかい」
私は変な酒を飲まされてはかなわんと思って念のために訊《たず》ねた。
「ちがうよちがうよ。コンコドスは黄色いレモン水のようなやつさ。それ、そのとおり……」と彼は私の前の無色透明の酒を指した。
「その方のじゃないか」と私は彼のグラスに入っている黄色い酒を指した。
「イヤ、こんなに褐色《かっしょく》がかってはいないよ」と彼は打ち消して、
「さア乾杯だ」
彼はキュッとグラスから黄色い液体を飲
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