てカナリヤの小さい扉《ドア》を押したものだ。
ふりかえってみると、桜《さくら》ン坊《ぼう》のような例の女は、白い腕をしなやかに辻永の腰に廻して艶然《えんぜん》と笑っていた。そして二人の姿は吸いこまれるように格子《こうし》の中に消えてしまった。
4
バー・カナリヤで一時間半も待ったろうか。随分永いこと待たされたものだが、私にとってはそう退屈《たいくつ》ではなかった。それはミチ子を傍《そば》にひきよせて飽《あ》くことを知らぬ楽しい物語をくりひろげていたせいであった。出来るなら辻永が永遠にこのバー・カナリヤに現われないことを冀《こいねが》った。辻永が探偵に夢中になっている間にこの女を誘《さそ》い出してどこかへ隠れてやろうかという謀叛気《むほんぎ》も出た。それほど私は、辻永のキビキビした探偵ぶりにどういうものか気が滅入《めい》ってくるのであった。
そこへ辻永がシェパァードのように勢《いきお》いよく飛びこんで来た。
「大勝利。大勝利」
彼は躍《おど》り出したいのを強《し》いて怺《こら》えているらしく見えた。
「おいミチ子。今夜は奢《おご》ってやるぞ。さア祝杯だ。山野《や
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