。三人とも夜中にいなくなったので覚えているそうだ。遺留品《いりゅうひん》も出て来た」
「ほほう」
「ところがその青年たちは、申し合わせたように近所の薬屋で、かゆみ止《ど》めの薬を買って身体に塗ったそうだ」
「三人が三人ともかい」
「そうなのだ。三人が三人ともだ。それがこの薬屋でかゆみ止めの薬を買って、身体に塗るしさ。女の話では、なんでもその前は全身かゆがって死ぬように藻《も》がいていたそうだ」
「どうしてそんなにかゆがる客をわざわざ取ったのだ」
「イヤそれは、○かゆい[#「かゆい」に傍点](家につくちょっと前から始まる)――なんで、始めからかゆがっていた訳じゃないのだ」
「じゃどこかで拾ってきた客なのだネ」
「これだ。○ストリート・ガール(銀座で引っぱられる)――つまり銀座から、あの場所まで引張ってゆくうちに、かゆくなったのだ」
「どうして、かゆくなったのだ」
「それは後から話すよ」
ミチ子がグラスを載《の》せてやってきた。
「オイ煙草を買って来て呉れ。それからシャンパンの盃《さかずき》をあげるから、冷《ひや》して用意しといて呉れ」
辻永はミチ子に向ってたてつづけに用を云いつけた。
「まア景気がいいのネ」
とミチ子はグラスを二人にすすめると向うへいった。
「さア一杯やろうよ」
「ウン」
「どーだ、これを飲んでみないか。君の口にはよく合うと思うがな」
と彼は自分のところへ置かれた盃をこっちへ薦《すす》めようとして、又別の声をあげた。
「オヤオヤ。ミチ子の先生、今夜はどうかしているぞ。コンコドスを僕のところへ置かないで君の前へちゃんと置いているじゃないか。莫迦《ばか》に手廻しがいいなア」
そういって辻永は二つのグラスを横から眺《なが》めた。私の眼にうつったものは、辻永のグラスの黄色い液体、私のグラスの透明な液体であった。
「コンコドスって無色透明《むしょくとうめい》なのかい」
私は変な酒を飲まされてはかなわんと思って念のために訊《たず》ねた。
「ちがうよちがうよ。コンコドスは黄色いレモン水のようなやつさ。それ、そのとおり……」と彼は私の前の無色透明の酒を指した。
「その方のじゃないか」と私は彼のグラスに入っている黄色い酒を指した。
「イヤ、こんなに褐色《かっしょく》がかってはいないよ」と彼は打ち消して、
「さア乾杯だ」
彼はキュッとグラスから黄色い液体を飲
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