は即刻殺人容疑者という醜名から解放されていいわけだ。ねえ、そうじゃないかね」
土居の言葉にも動作にも、新しい元気が溢れて来た。
「一応そういうことが成り立つわけだ。しかし僕の受けた印象では、この事件はそれで結末がつくとは思えない」
「……というと、どうなるんだ」
「いいかね、これは明日裁判医古堀博士の報告を聴いた上でないとはっきりいえないんだが、まあそれはそれとしてだ、旗田鶴彌氏の心臓麻痺は極めて自然に起ったものか、それとも不自然なものであったかによって、又新しく問題が出来るわけだ」
「どういうことだ、その自然とか不自然というのは……」
「つまり、死ぬ前の旗田氏は心臓麻痺を起すかもしれないというほどの病体にあったかどうかが問題なんだ。もし氏が健康を損ねていて、いつ心臓麻痺が起るかもしれないと、医師が警告していた――というような事実が発見されるなら、旗田鶴彌殺害事件なるものは著しく稀薄になるんだ。しかし反対に、旗田氏が心臓麻痺などを起すような病体でなかったということが証明されると、やっぱり旗田鶴彌殺害事件として扱わねばならなくなる」
「君は、どっちだと考えるのか、今までの材料と君の感じ
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