とでは……」
土居は妹の有罪無罪の判別を、帆村の次の一答によって決しようとて緊張の絶頂にあった。
「やっぱり殺害事件だと思うよ」
帆村は静かにそういった。
「しかも恐るべき殺害事件なんだ。今日までに余り例のないやり方でもって旗田氏は殺害されたものと信ずる」
帆村の声は、うわごとをいっているように響いた。それは彼が本当に戦慄していることを語るものであった。
「君は誰が犯人であるか、知っているのかね」
土居の言葉は鋭かった。
「知らない、全く知らない」
「犯人の見当ぐらいはついているのじゃないかい」
「いや見当もついていない」
帆村は首を左右に振った。
「それに、犯人の見当などをいい加減につけようものなら、真実が分らなくなる虞れがある。犯人の見当をつけてから、証拠を集めるやり方はよろしくない。あくまでも、確かな証拠を一つ一つ積みあげていって、その結果犯人の形が浮び上ってくるのでなければならない。こんなことは今更君に説明するまでもないことだけれど」
帆村は、まだ誰を犯人とも見当をつけていないことが、この話から分明となった。
「確かな証拠というやつは、もう相当集っているのかい」
「
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