疑材料は、今日一日で、まだいくらも殖えなかったと見ている。むしろ妹さん以外の人物へ、新しい嫌疑の眼が向けられ、妹さんの容疑点数はいくらか減ったようにも思われる」
「さあ、その話――今日の調べの話をすっかり僕に聞かせてくれないか」
土居の要求を容れて、彼は今日正午頃から旗田邸に於いて行われた取調べについて詳しく話をした。その話の途中、土居はいくたびか帆村の話の中へ質問を割り込ませようとしたが、帆村はそれを止め、最後まで話を聞いた上にしたまえと勧めた。話はようやく終りとなった。
弾丸が綴る言葉
「さあ、もう何でも質問していいよ」
帆村は、途中で八雲助手の持って来たコーヒーのカップを取上げて、咽喉を湿した。コーヒーは、すっかり冷くなって、底には糟がたまっていた。
「どうも奇々怪々だね。旗田鶴彌を殺したのはピストルの弾丸だというんで、それを中心に調べていたところ、最後に至って、いや死因はピストルで作られたのではなく、心臓麻痺だった――というんでは、たいへんなどんでん[#「どんでん」に傍点]がえしじゃないか。死因が心臓麻痺なら、旗田鶴彌殺しという犯罪は成立しないことになる。すると妹
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