午後十一時三十分前後で死因はピストルの弾丸ではなくて、心臓麻痺だそうです。詳しいことは、明日報告するといわれました。おわり」
旗田鶴彌の死因は、ピストルの弾丸ではなくて、心臓麻痺だ――と古堀裁判医がいったというのだ。
「そ、そんなことがあるものか」
と、大寺警部は腹立たしげに叫んだ。
「ふしぎだ、ふしぎだ」
と、長谷戸検事も俄かに信じかねている様子だった。他の係官も、事の意外に呆然としている。只、帆村荘六だけが、にやりと笑って、シガレット・ケースを出して、しずかに指先にその一本を抜きながら、
「第三幕です。これが第三幕です」
と、呟くようにいった。
護送車
まことに意外な裁判医の報告だった。
被害者旗田鶴彌は後頭部を撃ち抜かれて死んでいたのに、裁判医は「死因はピストルの弾丸ではない、心臓麻痺だ」といって来たのである。これでは長谷戸検事たちの困惑するのも無理ではない。一発弾丸を発射してあるピストルが家政婦小林トメの部屋の花活の中から発見せられ、これこそ事件の最有力な鍵として検事たちを悦ばせ、捜査と関係者訊問はそのピストルを中心に結集せられていたのであるが、大体その謎
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