載っていた。だが、それらの品物は、一つも転がっていはしなかった。
「……そんなわけでして、どうもはっきりしないところもあるんですが」と大寺警部の有名な“訴える子守娘”のような異様な鋭い声がして「ともかくも、ここの戸口の扉には内側から鍵がさしこんだまま錠がかかっているのに対し、反対側の窓が半分開いて居りますうえに、今ごらんになりましたとおり、被害者の頸の後に弾丸が入っている。それならば、犯人は被害者の後方から発砲し、それからあの高窓にとびあがって逃げた――と考えてよろしいのではないかと思います。私の説明はこのくらいにしておきまして、後はどうぞ捜査指揮をおねがいいたします」
 そういって大寺警部は一礼した。
 検事一行は、静粛な聴問の姿勢を解いた。
「すると君は、容疑者一号の婦人が、その被害者を射殺した後、あの高窓へとびあがり、扉を開いて外へ逃げたというんだね」
 長谷戸検事の声だった。
「はあ。私はそう思いますが……」
「で、その容疑者一号は、ピストルを持っていたかね」
「いや、持って居りません。追及しましたが頑として答えません」
「ピストルで射殺したことは認めたかね」
「ピストルなんか
前へ 次へ
全157ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング