の力でもって、ぜひ当局者から聞いてくれたまえ」

   検証

 帆村は、検察委員に選任せられていたから、警戒の警官にことわって、邸内に入ることを許された。
 中へ入ってみると、帆村の馴染な顔がいくつもあった。その顔触によって、ここに詰めている主任が大寺警部だと知った。その大寺警部は、今しがたここに到着した長谷戸検事一行を案内して、事件を説明しているところだそうで、今すぐそれに参加せられるが便宜であろうとすすめた。帆村はそれに従った。
 検事一行は、被害者の居間に集っていた。この居間は、十四五坪ほどの洋間であった。立派な鼠色の絨毯が敷きつめてあり、中央の小|卓子《テーブル》のところには、更にその上に六畳敷きほどの、赤地に黒の模様のある小絨毯が重ねてあった。その小卓子と向きあった麻のカバーのついた安楽椅子の中に、当家の主人旗田鶴彌氏が、白い麻の上下の背広をきちんと着て、腰は深く椅子の中に埋め、上半身は前のめりになって額を小卓子の端へつけ、蝋細工の人形のように動かなくなっていた、卓上には、洋酒用の盃や、開いた缶詰や、古風な燭台や、灰皿に開かれたシガレット・ケースに燐寸《マッチ》などが乱雑に
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