、この缶詰だけ知らないというのか。これはたしか、中が洗ったように綺麗な空き缶だったね」
「そうです」
「君は、この缶詰の中から毒瓦斯がすうッと出て来たと考えているんじゃあるまいね」
 と検事の言葉に、
「ははは、まさかそんなことが……手品や奇術じゃあるまいし。はははは」
 帆村が応える代りに、先へ笑ったのは大寺警部だった。
「この缶詰の中に毒瓦斯を詰めることは困難でしょうね」と帆村は真面目な顔でいった。「この缶詰は普通の缶でした。瓦斯を封入するには少くとも二箇の特殊の穴を明け、その穴をあとでハンダでふさいでおかなければなりますまい。しかしそんな痕もない全く普通の缶だったのです。もしそれが出来たら、大寺さんのいわれる手品か奇術です。いや、手品や奇術や魔術でも、この缶にそれを仕込むことは不可能でしょう」
「しかし、この空き缶が一体どうしたというんだろう[#「いうんだろう」は底本では「いうだろう」]」
 検事はふしぎでたまらないという風にひとり言をいって、首を振った。
「検事さん。こうなると、あの空き缶についている指紋がたいへん参考になるんですが聞いて頂けませんか。もう鑑識課で判別した頃じゃ
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