ういってから、やおら三津子の方に顔を向けた。俯向いた三津子の項《うなじ》に、乱れ毛がふるえていた。
「土居さん。二三の問[#「二三の問」は底本では「二三の間」]に応えて頂きましょう」検事はやさしくいった。「あなたが当夜、ここの主人の鶴彌氏に送られてこの部屋を出て行ったときのことですが、鶴彌氏はどの程度に酔払っていましたか」
三津子は口を開こうとはせずに、床の上をみつめていた。しかし検事は辛抱[#「辛抱」は底本では「幸抱」]強く彼女の応答を待った。
「酔ってはいらっしゃらなかったようでございます」
三津子は、案外しっかりした声音で応えた。
「酔ってはいなかったというのですね。しかし鶴彌氏はその椅子について酒を呑んでいたのでしょう。そうではなかったんですか」
「さあ、どうでございますか、あたくしがこのお部屋の扉をノックいたしますと、旗田先生は迎えに出て下さいまして、扉をおあけになりました。ですから、旗田先生がお酒を呑んでいらしたかどうか、あたくしには分りかねます」
傍聴の帆村が、唇をへの字にぎゅっと曲げた。わが意を得たりという笑い方を、彼一流の表現に変えたのである。検事の方は、だんだ
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