結を遂げた。しかしこれを辛抱づよく傍聴していた係官たちは、無用の禅問答を聞かされたようで、多少のちがいはあるが、誰しも両人を軽蔑する気持を持ったことは否めなかった。

   三津子登場

 土居三津子の護送自動車は、予定より三十分も遅れて到着した。途中でタイヤがパンクしたためであった。
 とにかく第一番目の容疑者としてこの事件を色彩づけている土居三津子の登場は、検事と帆村の野狐禅問答にすっかり気色を悪くしていた係官たちを救った。
 広間に入って来た三津子は、事件当時に較べるとすっかり窶《やつ》れ果て、別人のように見えた。それでも生れついた美貌は、彼女を一層凄艶に見せていた。一つには、三津子は今日は和服に着換えているせいもあったろう。それは三津子の兄が、差入れたものであった。
 大寺警部は、三津子を容疑者として誰よりも重視しているので、警部は誰よりも張切って動いていた。
「検事さん。どうぞお始めになって下さい。私の訊問は検事さんの後でさせて貰います」
 大寺警部は、三津子訊問の催促を長谷戸検事に対して試みた。
「じゃあ少しばかり僕がやって、後は君に引継ぐから、十分やりたまえ」
 検事はそ
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