などへも行ったかもしれない。そういうとき吸殻を捨てる場所は到るところにあったわけですね。窓から吸殻を捨てることも有り得るでしょう」
「で、君は何を主張したいのかね」
「何も主張するつもりはありません。ただ今のところを説明の補足として附け加えたかったわけで、結局あなたの説に深い敬意を表する者です」と会釈をして「もう一つ伺っておきたいことがありますが、例の黒い灰をこしらえた直後、鶴彌氏は死亡したという御見解なんでしょうか」
「いや、そんなことは考えていない。あの黒い灰をこしらえて以後、被害者は煙草をあまり吸わなかったらしいと認めるだけのことだ。実際、煙草を吸うのをよして、その後は酒を呑み、料理を摘むのに何時間も費したかもしれないからね」
「すると、中毒物件は飲食物の中に入っているとお考えなんですか、それとも他のものの中に……」
「それはこれから検べるんだ。毒物は固体、液体、気体の如何なる形態をとっているか、それは今断言出来ない。中毒性|瓦斯《ガス》についても疑ってみなければならないと思いついたことについては、君の示唆によるわけで、敬意を表するよ」
 検事と帆村の永い対談はここで漸く一旦の終
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