んと熱中して来た。
「すると、こちらのテーブルの上はどうなっていたですか。どんなものが載っていましたか。つまり酒壜や料理の皿なんぞが載っていて、酒を呑んでいた様子に見えなかったかとお訊ねするわけです」
「はあ。あのときそのテーブルの上には、別にお酒の壜もお料理のようなものも載っていませんでした。ただ煙草や灰皿だけでございました」
「煙草や灰皿だけで、テーブルの上には酒壜や料理類は載っていなかったというんですね」検事は新事実の発見に、思わず色を動かしたように見えた。「それで、あなたはその酒壜や料理類を、この部屋のどこに見つけたんですか。それはどこに載っていましたか」
「さあ、それは……それは、はっきり存じません。憶えていません」
「はっきりでなく、うろ覚えなら知っているんですか」
 検事は急迫した。
「はい。それは、あのウ……あのお戸棚の上に、大きなお盆に載って、あげてあったようにも思いますのですけれど」
「どうして、そういうことをはっきり覚えていないのですか。あなたは当夜、かなり永い時間この部屋に居られた筈ですから、そういうものの置き場所に気がつかないわけはないと思うんですがね。その点
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