度もやった。そして頭髪に爽快なローションをふりかけ、ブラッシュでぎゅうぎゅうとかきあげた。そして最後の仕上げをチックと櫛に托して、漸く鏡の中にこれなら見られる自分の顔を取戻したのであった。
彼は長大息した。こびりついて放れそうもなかった悪夢が、あらかた彼の身体から出ていったように思った。いやまだ悪夢の断片がまだどこか、この化粧室に残っているような気がする。
彼は周章《あわ》てて化粧室をとび出した。そして元の寝室へ戻った。そして南向きの窓のあるところへいっていっぱいにレースのカーテンをひろげた。
午前四時のすがすがしい空気が、ヘルナー山の方から彼の胸に向ってぶつかった。彼は目を細くして大きく呼吸をした。真夏といえども山頂に白く雪の帽子を被つているヘルナーの霊峰、そしてその山腹に残っている廃墟オルタの城塞の壁。毎朝目をさますと、きまってドレゴはこのヘルナーの霊峰とオルタの古城を仰いで宇宙万象古今へ挨拶を贈るのであった。この朝彼は不慮の負傷のため、聊《いささ》か順序をくるわしはしたが、今や新しい精進の気持ちをもって、気高い霊峰の上へ目をやったのであった。
「おお、わが霊の峰ヘルナー。永
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