がて聞こえなくなった。爺やは水戸に丁寧に礼を述べて玄関口を閉め、それからアルコール漬の若旦那さまを担いで馬蹄形に曲った階段をのぼり、そして彼の寝台の上にまで届けたのであった。
ドレゴは寝台の上に大の字になって倒れると、またしても声を出して「キ、君、悪魔集団は僕たちの隙を窺っているんだぞ。油断は……」
あとは口の中、そしてガロ爺やが戸口を閉めて部屋を出て行くときには、若旦那さまの独白は大きな鼾《いびき》に変わっていた。
稀代の怪事
そのままで何事もなかったなら、おそらくドレゴは昼前頃までぐっすりと眠り込んだことであろう。
ところがドレゴは思い懸けない出来事のため、それから一時間ばかり後に、一度目をさまさなければならなかった。
泥のように熟睡していたドレゴをほんの数秒の間なりとも目を覚まさせ、むっくり寝台の上に起上らせるという力を発揮したものは、相当のものであった。ドレゴは愕《おどろ》いて目をさましたのだ、そして重い瞼を懸命に開いて、何か大きな音のした方を見廻したのであった。分かった。寝台と反対側の壁にかけてあった聖母マリヤの額像が半分に千切《ちぎ》れ、上半分だけが壁にぶ
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