《な》めて、
「使うことは大有りさ。年中時期を選ばず、氷の中で漁業が出来らあね。これは大した儲け仕事だよ、年中休みなしで漁獲があるんだからね」
「えへっ、そんなに年中儲けてどうするんだ。これ以上酒を呑めといっても呑めやしないぜ」
「儲けるのがいやならいやでいいが、この砕氷船を買っとけば、いざ戦争というときには原子爆弾よけには持ってこいなんだ。ほう、あのゼムリヤ号の事さ。あんなに遠方から空中を吹きとばされ山の上にぶちあたってもすこしも壊れないですむんだ。長生きがしたけりゃ一隻買っておきなさい」
「ばかいわねえもんだ。おれは長生きしたいなんて、一度もいったことはねえぞ」
 ドレゴは、話のわからない船主の間を辛抱強く訪ねて廻って、くりかえし砕氷船の売込みに奔走《ほんそう》した。その結果、夕刻までにやっと一隻だけ、仮約束が成立した。
 ドレゴは、すっかり疲れ切って、夕暮の埠頭に沖を向いて腰を下ろした。めずらしくうすい霧が動いている。と、その向うから汽笛が聞え、一隻の汽船が入港して来る様子であった。
「あ、グロリア号だ。珍しいなあ」
 その汽船はアメリカの貨物船で、二年前まではよくこの港へ姿を現
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