ありませんか」
「だって、こっちからだして提供するものはありゃしないからね。僕はワーナー調査団について大西洋まで行くには行ったが、そのまま引返して来たんだからね、或る婦人の策謀にうまうまのせられて……」
「まあ、ドレゴさん」
「要するに、僕はケノフスキーを満足させるほどの物を持っていないのだ。お気の毒さまだがねえ」
「新聞を片端から切抜いて送ったらどう」
「ケノフスキーを怒らせるばかりだ」
「だって、あなたのような方に、それ以上を求めるのは酷《こく》だわ」
「はいはい、よくご承知で……。水戸君とは違いましてね」
「あら、そんな意味でいったんじゃないわ。本当に無理なんですもの」
「まあいいや。少し考えることにしよう。それじゃエミリー夫人。また会うまで」
ドレゴは口笛を吹きながら帰っていった。
深夜の大西洋
その翌日から、ドレゴは何と心を決めたものか、港へ出ては船主関係の人々を探し出しては、すばらしいヤクーツク造船所製の砕氷船を買わないかと、外交員商売を始めた。
「砕氷船なんか買ったって、使うことはありゃしないよ」
と相手がいおうものなら、ドレゴは待ってましたという風に唇を甜
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