けすけになり得ない人物だと断定するであろう。終に、溌剌《はつらつ》たるエミリーによろしく伝言を頼む”――こういうんだがね、ロシア人らしい長い手紙だ」
 ドレゴは吐息と共に、片手で自分の頤《あご》をもんだ。
「あなたはお馬鹿さんよ。エミリーによろしく伝言を頼むのところだけを、あたしに読んで聞かせりゃいいじゃないの」
 エミリーの目が少し笑った。
「いや、全文読んだ上で、エミリーによろしくと来ないと、感じがでないからね。はっはっはっ……それはいいが、このケノフスキーの提案をどうしたもんだろうね」
「あたしに相談したって、何が分るものかね」
「うん。水戸がいれば早速彼の意見を徴するんだ、生憎《あいにく》水戸がいないから代りに水戸夫人の卵さんに伺ってみた次第だがね」
「あたしを馬鹿になさるのね、ドレゴさん」
 エミリーが小さい目でドレゴを睨《にら》んでみせた。が、その唇には微笑の影が浮いていた。
「真面目な話なんだよ。僕は困ってしまった。ケノフスキーに恨まれたって何とも思やしないが、しかし何だかこう胸を圧迫されるようなものが残りそうで、いやだね」
「取引をなさってはどうなの。いい条件らしいじゃ
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