あるよ」といいながら机上の書類を取上げ、
「D十五号の遺留品を、僚艦が現場附近において収容した。その品目がここに書出してある。ゆっくり見給え」
とホーテンスたちへ会釈《えしゃく》した。
「それについて何か特別の注意すべき材料がありましたか」
水戸が訊《たず》ねた。
「遺留品は、その表にあるように、殆ど原形を停めないまでに破壊されている。その二三のものを電子顕微鏡下において調べたが破壊面は非常な微粒子――コロイド程度にまで粉砕されている。火薬などによる普通の破壊事件では見られない現象だ」
「なぜそんなに破壊面が粉末化しているのでしょうか」
「それは今のところ不可解だ」
「その破壊面附近に、ウラニウムなどの放射性物質がついていませんでしたか」
「今までのところ、それを検出し得ない。多分付着していないのであろうと思う」
「それはおかしいですね」
とホーテンスが横合いから口を挟《はさ》んだ。
「すると、D十五号は原子爆弾によって破壊されたのではないといい切っていいわけですか」
「まだ、そこまではいい切れないが、とにかくこれまでに知られたウラニウム爆弾でないといえる可能性が多分にある」
「どうもそれはおかしい。原子爆弾でなくて如何なるものがあんなひどい破壊を生ぜしめるでしょうか。いや、これは素人考えに墮していますかな」
博士は黙ってホーテンスに対していたが、それから暫くして口を開いた。
「だからわしは、明日海底へ下りることに決心したわけだ」
ホーテンスは目をぱちくりしたが、すぐ気づいて肯いた。
「なるほど、そうでしたね……いや、僕は今までなんだか原子爆弾の幽霊だけに取憑《とりつか》れていたようだぞ、はて、これはどうしたことだ」
大海底に着く
その翌朝、ドレゴは水戸に附き添われて、ワーナー博士の許へ行った。ドレゴは都合により、今日の海底探検に同行することを辞退したいこと、それから彼は出来るだけ早くこの調査団から離れて、アイスランドへ戻りたいことを申述べた。
博士は、それを聞くとすぐ諒解した。そして護衛艦の一隻が今日、アイスランドへ引返すことになっているから、それに便乗して行ったがいいだろうといって呉れた。そして博士はドレゴがなぜ急に予定を変更したかについて一言も訊《き》きはしなかった。水戸は、博士の肚の太さに対し畏敬の念を生じた。
実はドレゴが急にこんな
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