地球発狂事件
海野十三(丘丘十郎)

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)横溢《おういつ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)五千十七|米《メートル》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定、誤記の訂正
(例)対し[#「対し」は底本では「封し」、6−上段−6]

底本のダブルミニュートは、「“」と「”」に置き換えた。
−−

  発端

 この突拍子もない名称をかぶせられた「地球発狂事件」は、実はその前にもう一つの名称で呼ばれていた。それは「巨船ゼムリヤ号発狂事件」というのであった。これは前代未聞のこの怪事件を最初に発見し、そしてその現場に一番乗りをした上に、全世界の報道網に対し[#「対し」は底本では「封し」、6−上段−6]輝かしき第一報を打つことに成功したデンマーク新報のアイスランド支局員ハリ・ドレゴの命名によるものであった。巨船ゼムリヤ号発狂事件――という名称からして既に怪奇味が横溢《おういつ》し只ならぬ事態が窺《うかが》われる次第であるが、それが後になって更に一層発狂的命名をもって「地球発狂事件」と唱えられるに至ったのである。この改訂の命名者は、ドレゴ記者と仲よしの隣人である同業の水戸宗一君であった。
 一体どうして巨船ゼムリヤ号が発狂したのか、また地球が発狂したのであろうか。率直にいって、この事件の名称はあまりに突拍子であり奇抜すぎて、なんだか本当のことのように思えないのである。ひょっとしたら、それはこれらの命名者であるドレゴ記者と水戸記者の、たちのよくない悪戯《いたずら》かもしれないと、始めはそう思った者もすくなくはなかったのである。
 ところが、この事件の内容がだんだんさらけ出されて行くにつれ、その怪奇なる点、桁外《けたはず》れの点、常軌を逸している点などで「発狂事件」と命名するより外に[#「外に」は底本では「外に他に」、6−下段−5]妥当なる名前のつけ方がないことが、誰にも首肯されるに至った。さてこそまことに天下一大事、この事件にまさる大事件は有史五千年このかた記録にも予想にもなかったといえる。前置きはこのくらいに停め、それは一体どんな事件であったかという記述にうつらねばならぬ。それにはこの事件の発見者である記者ドレゴ君を登場せしめることが最も効果的であろう。
 ドレゴ記者はオルタ町
次へ
全92ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング