海底土産というやつを持って帰ってもらいたいね」
と鼻の頭を真赤に染めた酔払いの船員がホーテンスへねだった。
「海底土産だって。へえっ、一体何が欲しいのかね」
ホーテンスもすっかり酩酊《めいてい》して、とろんとした眼をしていた。
「何でもいいよ、しかしなるべく豪華なところを願いたいもんだよ。金貨が一杯入っている袋とか、金剛石紅玉青玉がざらざら出てくる古風な箱だとか、そういうものなら僕は悪くないと思うね」
「それは誰だって悪くないよ。君の欲の深いのには呆《あき》れたもんだ」
「そんなら貴様も海底へ出張すればいいじゃないか」
と、同僚がまぜかえした。
「いや、僕は駄目だ。船員というものは船を離れると駄目なんだ。あんな芋虫の化物のような潜水服を着て、のこのこ海底を歩くなんてぇことは、われわれ船員の柄じゃない」
「うまくいってるぜ。しかし僕たちがこれから下りて行く海底はそんなものは見付からないだろう。お目に懸れるのは、骸骨に、腐った鉄材、それに深海魚ぐらいのところだろうよ」
「いや、必ず持って来てやるよ、はははは」
談笑が、煙草の煙とアルコールの強い匂いで飽和したサロンの空気をかきまわす。
水戸もドレゴも、その渦巻の中に顔を見せていたが、給仕が入って来てドレゴに何か紙片を渡した。ドレゴはそれを受取ると、はっとした様子で立上るとサロンを出ていった。
ドレゴが再びサロンへ戻って来たのは、それから三十分ほど後のことだった。水戸は逸早《いちはや》く彼を認めた。そして彼が非常に興奮していることも、同時に見て取った。
「どうしたんだ、ドレゴ」
水戸は彼が元の席についたとき、低い声で訊《き》いた。
「うん……後で話すよ」
ドレゴはそう応えて、苦しそうに顔を歪《ゆが》めた。水戸はそれ以外彼を追求しなかった。今この友人を更に苦しめてはならないと思ったからだ。
宴が果てたのは、それから一時間後のことであった。時計は午後十一時を廻っていた。酩酊はしていたが、さすがにホーテンスはサロンを出るとすぐワーナー博士たちの打合せ会議が済んだかどうかを訊いた。会議は少し前に終わっていた。ホーテンスは、水戸とドレゴを呼んで博士の部屋を叩いた。
「ようやく準備は完了したよ」
と博士は満足らしく微笑した。
「その後、事件について何か判明したことはありませんか」とのホーテンスの質問に対し、博士は「
前へ
次へ
全92ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング