偉大な物凄い事件だよ。発狂した者がありとすれば、その当人は一ゼムリヤ号ではなく、もっとでかいものだよ」
「ふふん。じゃあ、一体何が発狂したというのかね」
「そのことだが、僕なら、こう命名するね。“地球発狂事件”とね」
「なに、“地球発狂事件”? 君は、地球が発狂したというのかい、この巨大なる地球が……」
「そうなんだ。地球が発狂したのでもなければ、この一万数千トンもある巨船が、標高五千十七メートルのヘルナー山頂に噴きあげられた理由が説明できんじゃないか。もちろん地球が発狂したといっただけでは完全なる説明にはなっていないが、とにかく常識破りのこの怪事件のばかばかしさというものは、地球が発狂したとでもいわないかぎり、そのばかばかしさを伝える表現法が見付からない。そうは思わんかね、君は……」
「それは大いに思う。しかし……しかし、何だか僕の頭が変になって来るよ。地球発狂の次に、ハリ・ドレゴの発狂が起りそうだ」
「ははは、世界第一の報道記者がそんな気の弱いことでどうする、さあ、そのへんで、とにかくその第一報を全世界へ向かって送ろうや」

  渦巻く山頂

 ハリ・ドレゴの発した“巨船ゼムリヤ号発狂事件”の第一報は、果して全世界に予期以上の一大衝撃を与えた。
 この報道を受け取った新聞通信社の約半数は、この報道内容の常識逸脱ぶりを指摘して、報道者ドレゴの精神状態が正しいかどうかにつき疑問を持ち、報道をさしひかえた。これはこの事件が桁《けた》はずれの怪奇内容を持っているところから考えて、当然のことであったろうが、その代わりそういう新聞社は、遅くとも三十六時間後には非常な後悔に襲われると共に、睡りから覚めたように“巨船ゼムリヤ号発狂事件”について広い紙面を割《さ》かざるを得なかった。
 世界各地の通信機関と調査団とが、ヘルナー山頂に続々と集まってきた。そういう人々の手によってやたらにキャンプが張られ、郵便所が出来、テレビジョンやラジオの放送塔が建てられた。それから簡易食堂や酒場や娯楽場までが出来て、あまり広くもない山頂一帯は、まだ火の手をおさめないゼムリヤ号を中心として、急設文化都市の出現に、もうキャンプ一戸分の余地も残さないようになってしまった。
 どの通信社も、始めに派遣した団体のスケールでは、この大事件の報道には十分でないことが判った。そのことが判ると、彼らは本社へ向って、
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