もっと強力な調査機関を備えた第二班の出動を請求した。しかし第二班が到着してみると、そのときには更に一層強力なる第三班の急派を打電しなければならない有様だった。それというのも、発狂したゼムリヤ号の火災は一向下火になる様子がなく、反《かえ》って燃えさかる模様が見えるばかりか、近き将来大爆発を起すのではないかとも思われたし、そうかといってこれだけの大掛かりの出張員たちがいつ消えるとも分らぬ火災を傍観しているばかりでも済ましていられず遂《つい》に防火服や防圧服に身を固め、船腹の一部へ突進して溶接器で穴を穿《うが》ち、たちまち噴き出す火焔と闘って懸命の消火作業を続け、ようやく火焔を内部へ追いやると共に、防火服の冒険記者が船体の中へ匍《は》い込《こ》むなどという、はらはらする光景も展開するようになった。しかも、こういう努力に対して酬《むく》いられるところは一向大きくはなかった。たとえば、このゼムリヤ号の航海日記などはどの通信社でも第一番に狙ったものであったけれど、それは誰も手に入れることが出来なかった。というのは、船橋などはもう既に完全に焼け尽し、真黒な灰の堆積《たいせき》の外《ほか》に何も残っていなかったのである。その他のものも、呆《あき》れるほどよく焼けており、この数日ゼムリヤ号の火災が普通以上に高熱を発して燃え続けたことが、誰の目にもはっきり承認された。
そうなると、調査方針は自然変更されねばならなかった。今度は積極的に消火することに狙いが置かれた。今盛んに燃焼している部分を完全に消し留めることによって、これから先燃焼するであろう物件を助け出し、それによってゼムリヤ号の搭載荷物とか遺留物品を点検して何かの新しい手懸りを得ようとするのであった。そのためには、更に大掛りな機械類の現場到達を本社へ向けて要請しなければならなかった。
このような大掛りな調査競争となったために、ハリ・ドレゴや水戸宗一の役割は、すこぶる貧弱なものに墜《お》ちてしまった。彼ら両人には、完全な耐熱耐圧服の一着すら手に入れることは出来なかった。従って両人は甚だ残念ながら報道の第一線から退《しりぞ》く外なかった。そして、“有名なる第一報者のハリ・ドレゴ”という博物館的栄誉だけが残されているだけであった。
「これから、どうするかね、水戸」
野心|勃々《ぼつぼつ》たるハリ・ドレゴは、まだ諦《あきら》めかねて
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