て、一体、かの男は奥様とどういうご関係の人物であるか、それについてお話し願いたいのですが……」
 探偵は、機会が到来したと思って、始めから知りたかった問題にとりついた。が、その結果は香《かんば》しくなかった。
「今までに何の関係もなかった男なんでございますの。これまで全然見たこともなかった人でございますの。あんな醜い歪《ゆが》んだ顔の人を、これまでに一度でも見たことがあれば、忘れるようなことはございませんもの。それなのに、あたくしは今、あの化物みたいな男にしょっちゅうつけ狙われているんでございます。ああ、いやだ。おそろしい。気が変になりそう……」
「そういう次第なら、警察へ訴えて、かの男に説諭《せつゆ》して貰うという方法が、この際もっとも常識的かと思われますが」
「ああ、何を仰有《おっしゃ》います。警察があたくしたちのために何程のことをしてくれるものでございましょうか。ただ、徒《いたず》らにかきまわし、あたくしたちをいらいらさせ、そして世間へいっとき曝《さら》しものにするだけのことで、あたくしの求めることは何一つとして得られないのです。ごめんですわ。あたくしは直線的に効果ある方法を採るのです。それが賢明ですから。あなたさまは、事件の秘密性をよく護って下さる方であり、ほんのちょっぴりしかお尋ねにならないし、そして思い切った方法で解決を短期間に縮めて下さる、その上に常に事件依頼者の絶対の味方となって下さる方だと世間では評判していますので、それで依頼に参ったわけですわ。この世間の評判は、どこか間違っているところがございまして」
「過分のお言葉でございます。とにかく早速ご依頼の仕事にとりかかることといたしまして、只一つお伺いいたしますことは、甚だ失礼でございますが、御つれあい様とのご情合はご円満でございましょうか」
 女客は嘲笑の色を浮べたが、それは反射的のものらしく、すぐさまその色は消えた。
「はあ、至極《しごく》円満……つれあいはあたくしを非常に愛し、そして非常に大切にしてくれて居ります」
「あなたさまの方は如何《いかが》です、おつれあい様に対しまして……」
 帆村は一つの機微にも神経質になることがあった。
「それは……」と女客は明らかに口籠《くちごも》ったがしかしおっかぶせるように「それはあたくしの方も、つれあいを愛しています。それはたしかでございます」
 帆村は、あ
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