とがはっきり推定される。なかなか狡《ずる》い――いや、巧妙な記載だね」
桝形は帆村の言葉を聞き流している。
「抽籤で、碇曳治が流星号の中に残されることとなった。そして他の一名は、法規に照らして交川博士の手により処理された。それに違いない。――他の一名は何者か。どういう処理をしたのか。説明して貰えないかしら」
「その判断は君の常識に委《まか》そう」
「分っていることは、姓名不詳の密航者は流星号の中に停ることを許されず、その日の二十三時に、外へ追放されたんだ。そうだね。それは死を意味するのかね」
「艇外のことについて、僕は責任を持っていないんだ。だからどうなったか知らない」
「それはどうかと思うが、しかし今君を糾弾《きゅうだん》するつもりはない。僕の知りたいのは、姓名不詳氏がどう処理されたかということだ。交川博士に聞けば分るんだが、博士は今何処に――」といいかけて帆村は突然電撃を受けたようにぶるぶると慄《ふる》えた。「……交川博士は探険の帰途、不慮の最期を遂げたんだったね」
「君は何でも知っているじゃないか」
「いずれ全部を知るだろう――。しかし今は知りつくしていない。――博士と話をすることが出来ないなら、通信部の誰かに会って訊いてみたい。紹介してくれたまえ」
「もう解散してしまって、誰も居ないよ。通信部は完全に解散してしまったのだ」
「そうか。それは残念だ。しかし名簿は残っているだろうから、それを手帖へ控えて行こう」
深夜の坂道
帆村は甥と共に、そこを引揚げて彼の事務所へ戻った。
若い甥は、帆村をそっちのけに昂奮《こうふん》していた。帆村はそれをしきりになだめながら順々に仕事をつづけていった。
「こうなれば、谷間シズカ夫人の事件なんか後まわしにするんですね」
蜂葉は、そうするように伯父へ薦《すす》めたい一心から、そんな事をくりかえし口走った。
帆村は何とも応えなかった。
いつの間か、夜は更けた。
「おい、出掛けるよ。ついて来るかい」
「行きますとも。ですが、一体どこへ?」
帆村の目あては、例のだらだら坂だった。厳冬であるが、ここは地下街のことだから、気温は二十度に保たれている。
帆村は確信に燃えているらしく、その坂をさっさと昇っていった。
坂を昇り切ろうとしたとき、帆村は甥に合図をした。
二人は突然足を停めると、左へ向きをかえた。蜂葉
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