増員可能ト認ムル者五名、不可能ト認ムル者四名トナリタリ。(数字抹消)事ハ決マリタリ。抽籤《ちゅうせん》ノ結果、碇曳治ヲ隊員第四十号トシテ登録スルコトヲ、本会議ハ承認セリ。余事ハ交川《まじりかわ》博士ニ一任シ、処理セシム。――なるほど、三日目に碇は隊員の資格を得たんだ。そして定員は三十九名から一名増加して四十名になったんだ」
 桝形の目が、凍りついたように帆村の横顔を見ている。帆村は相変らずそんなことには無礼者だ。(彼の甥が、忠実なる監視灯の役目をつとめて、情報を靴の音で知らせている)
「この日誌の文句は写して置こう」
 と、帆村は手帖《てちょう》の中に連記する。
「桝形君。ここのところに抹消されたる文字があるが、これはどう読むんだろう」
「抹消、すなわち読まなくていい文字だ」
「だってこれを読まないと文章が舌足らずだぜ」
「文芸作品じゃないからそれでもよかろう」
「記録文学の名手が、ここでだけ手をぬくのは変だね。とにかくこの碇洩治が密航者としての処断を受けないで一命を助かり、隊員に編入せられたのに彼は大感激し、あとで大冒険を演じ流星号の危機を救い、一躍英雄となった――というわけなんだね」
「そのとおりだ。実際彼の活躍ぶりは……」
 と、桝形は俄《にわ》かに雄弁になり、あの当時のことを永々と喋り出した。帆村はふんふんと、しきりに感心している。しかし彼の手は、別冊の頁をしきりに開いていた。それは交川博士の手記にかかる「通信部報告書」だった。同じ八月三日の記載に、次のような文句があった。
「……密航者一名ヲ法規ニ照シテ処理ス。二十三時五分開始、同五十五分終了」
 それからその欄外に鉛筆書で「23XSY」“畜生、イカサマだ云々”、「要警戒勝者」と、三つの文句が横書になっている。帆村の顔は硬《こわ》ばった。
「密航者は一名かと思ったら、そうじゃなく、二名居たんだね。」
 帆村は叫んだ。
「君の解釈は自由だ」
 桝形は太々《ふてぶて》しく言い放った。
「ちゃんとここに書いてある。この『通信部報告書』に。これは交川博士の筆蹟《ひっせき》だ」
 帆村は「密航者一名ヲ法規ニ照ラシテ処理ス云々」のところを指した。そのとき別の書類が、欄外の鉛筆書きの文字を隠蔽《いんぺい》していた。それは偶然か故意か、明らかではない。
「これを読んでから、もう一度『航空日誌』に戻ると、密航者が二名あったこ
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