ぞ来てくださいと頼んだのは、一カ村ではなく、そのあたり四里四方の全部の村々であった。
昔の博士を知っている者の中には、めんくらった者がすくなくない。というのは、博士はその昔、研究所長として、はなはだ横柄《おうへい》であった。たまに博士と行きあって、こっちからあいさつの声をかけても、博士はじろりと、けわしい目を一度だけ相手に向けるだけで、礼をかえしもしなかった。
じろりと見られるのは、まだいい方で時には博士はまったく知らぬ顔で行きすぎることさえあった。だから村人は、博士のえらいことを尊敬していても、博士をしたう心を持つ者はいなかった。
学者という者は、こんなにごうまんなものであって、農夫《のうふ》や炭焼《すみや》きなどを相手にしないものだと、昔からのいいつたえで、そう思っていたのだ。
ところが、こんど博士は、いやに腰がひくくなった。だから、昔を知っている者たちはおどろいたのである。おどろいて、顔を見あわせた。ものはいわなかったけれど、目つきでもって、村人はおたがいにいいたいことを察《さっ》した。
(博士さまは、えらくかわったでねえか。えらく腰がひくくなっただ)
(ほんに、そのこと
前へ
次へ
全194ページ中63ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング